北欧神話 

アースガルズの再建とロキが生んだスレイプニル

この記事ではアースガルズの再建と、スレイプニル誕生の物語を紹介する。

この物語から、はじめてロキが登場しトリックスターの活躍が見うけられる。

またアース親族を壊滅させようとする巨人、トールが振るうミョルニルの一撃、

スレイプニルがうまれる経緯など内容が充実している。ぜひ最後まで見ていってほしい。

壊れたアースガルの再建

アース神族とヴァン神族のはげしい戦争後の話。両神族は人質を交換することで和平を結んだ。

しかしアースガルズを取り巻く城壁は、ヴァン神族の魔法によって破壊されたままだった。

神々はミズガルズを置き、ヴァルハラを作ったが城壁の再建は手をつけられずにいた。

来たるラグナロクに備え、巨人の攻撃から守るため城壁の再建は必須。

しかしみずから再建しようとする者もおらず手を焼いていた。

そんな中、1人の男がビフレストの橋を超えアースガルズへとやってきた。

なぞの男の要求:フレイヤと太陽と月

男はグラズヘイムへと招き入れられ、アース神族が見守るなか男は口を切った。

「わたしは鍛冶屋を営んでいる。アースガルズの城壁がくずれ困っているようす、ならばわたしが再建しよう」

つづけて「山の巨人や霜の巨人がミズガルズに押しよせても、信頼のできる城壁を1年半でつくろう」といった。

神々はこの期間であれば不可能ではないと考えた。しかしタダで仕事を請け負うはずはない。神々は問うた「なにが望みだ?」

「フレイヤをわたしてもらおう。それから、太陽と月もほしい。フレイヤと太陽と月。これが条件だ」と男は無理難題を押しつけてきた。

ロキの計画

オーディンは神々を集め、協議を凝らした。

するとロキが「この計画はわたしたちの利益に変えることができる。条件を6ヶ月にすれば鍛冶屋はつくることができないだろう」と提案した。

神々一同はロキの発言にどんな考えがあるのか気になった。

「男が6ヶ月に同意すれば、失敗を免れない。さらにほぼ完成した城壁を手にすることができる。もし同意しないならわたしたちは何も失わずにすむ。」

オーディンはロキの巧妙な計画に感心していたが、不安も感じていた。しかし他の神々はロキの忠告に賛成していた。

そしてオーディンは男に対し「期限は6ヶ月間。完成できれば望むものをやろう。」
男は「それは不可能だ。それを承知で無理を突きつけている」

加えてオーディンは「明日は冬の初日。手助けはいっさいなし。そして最初の夏に城壁が未完成なれば報酬は払わない。」

男は「せめてわたしの馬スバディルファリの助けをゆるしてもらいたい」
つづけて「それに加えて身の安全も保証してほしい」 と条件を付け加えた。

この提案をオーディンは認めなかった。しかしロキは「ゆるしてやれ。拒否すれば城壁は手に入らない」と説得した。

結局オーディンは口のうまいロキに説得され、馬の使用をゆるした。

さて、男が身の安全の保証をつけ加えたのには理由があった。トールからの報復をおそれていたからだ。

このとき彼は東で魔物と戦っていた。トールが帰国し、この契約に不服の申し出をされることに備えたのである。

神々の不安

そこで、裁き治める神、いと尊い神々は、こぞって裁きの庭に出て、
協議を凝らした。
そも何者が空中に毒を混ぜ、
巨人の輩にオーズの妻をとらせようとしたものか、と。
エッダ: 古代北欧歌謡集 巫女の予言「二五」

冬の出し1日目から男は仕事にとりかかった。自分が寝ている夜の間にも馬に石を運ばせていた。

この男と馬の働きぶりをみて神々は肝をつぶした。なんとその馬はとても大きな岩を運び、男の倍以上もの仕事をしている。

それを見た神々はうすうす感づいていた。おそらくこの男の正体は巨人ではないかと。

そうこうしている間に冬も過ぎ城壁の工事は着々とすすんでいた。今や見上げるほど高く、だれも攻撃できないほど頑丈につくられていた。

さらに夏のはじまる3日前には城門の工事にとりかかっていた。それに危機を感じたオーディンは神々をグラズヘイムに招集した。

オーディンは「フレイヤを巨人に嫁がせ、太陽と月を巨人に与え、空と天の破壊を招く事態をつくったのはだれだ。」と問うた。

すると一同はロキを見つめた。ロキの策略であると、みなの意見は一致していたのだ。

「わたし一人の責任ではない、ここに集まる神々も同意したはずだ」とロキ。

それに対しオーディンは「しかし馬を使うことをすすめたのはおまえだ。この災難から脱出する方法をしめせ」

つづけてオーディンは「この取り決めが破断に終わるよう取りはからえ。さもなくば、ろくな死に方をしないぞ」と問い詰めた。

ロキはこの言葉と他の神々から恐怖を感じ「どんな犠牲を払おうとも、取り決めを破断にする」と神々の前で誓った。

山の巨人の最後:トールの一撃

そのころ男はスバディルファリを連れて石を取りに出かけていた。仕事も順調に進み、このままいけば期間中に終わると確信した。

すると森の中から1頭の雌馬が駆け出し「ヒヒーン」といなないた。スバディルファリはその雌馬を見ると仕事を放棄し暴れだした。

ついには男とつながった手綱を引きちぎり、雌馬の方にかけていってしまった。男はいそいで馬を追った。しかし馬どもは一晩中かけ回りその夜の工事は停滞した。

朝をむかえたが馬どもはかけ回ってばかり。結局その日も工事はすすまなかった。このままでは期間内に仕事が終わらず、報酬はタダ働きに変わってしまう。

トール1人だけが、怒りに任せて打ってかかった。このようなことをきいて、座視している彼ではなかった。彼らの間でかわされた誓い、約束、誓約、すべての固い取り決めは破られた。

エッダ: 古代北欧歌謡集 巫女の予言「二六」

男は神々に騙されたと思い、巨人の怒りに燃えた。そして人のすがたの変装を解き、神々の前に山の巨人の姿をあらわし大声でいった。

「おれを騙したな、卑怯な神め、今すぐ報酬をよこせ」
「山の巨人よ、とうとう姿をあらわしたな。すぐにトールを呼べ」

オーディンはこう神々に告げるといそいでトールを呼んだ。

すると、さっそうとトールは駆けつけ山の巨人の頭上にミョルニルを高々と振りあげ、強烈な一撃をはなった。そして神と巨人の誓いは破られた。

トールは山の巨人に報酬をしはらった。もう巨人がヨトゥンヘイムに帰ることは二度とない。なぜならニヴルヘイムの下に投げ込まれたからだ。

こうしてロキの計画通りにことは進んだ。
神々は城壁を手に入れ、ヨトゥンヘイムにフレイヤは嫁ぐことはなく、太陽と月も失うことはなかった。

オーディンの馬スレイプニルの誕生

ロキはアングルボザと狼を生み、
スバディルファリとの間にスレイプニルを生んだ。
一人の魔女が何より恐ろしい。それはビューレイストの兄(ロキ)から生まれたのだ。

エッダ: 古代北欧歌謡集 ヒュンドラの歌[四〇]

ところで神々から脅しをかけられたロキはどうなったのだろうか。
ロキはあのあと、スバディルファリのもとに雌馬に変装して近づき、山の巨人の邪魔をしていたのだ。

そしてロキはスバディルファリとの間に一頭の子馬を生んだ。その馬は灰色で、生まれつき8本足で名はスレイプニルと呼ばれている。

ロキはこの馬をオーディンに贈った。そしてその馬はオーディンの愛馬となり、神々と人間の中で最もすぐれた馬となった。

まとめ

結果的にロキの計画通りにすすんで、ほぼ完成した城壁とスレイプニルを手に入れた。

山室静氏の考察によると巨人がアースガルズに来た理由は、アース神族からフレイヤと太陽と月をうばい、永遠にこおりつく闇に送り込もうとしたとしている。

巨人とアース神族の報酬

しかし、神々の戦力を落とすはずが逆に戦力を与えてしまう始末。
山の巨人は城壁とスレイプニルを、アース神族はミョルニルの一撃の報酬をあたえたという皮肉なオチ。

個人的に気になったのは、ロキがスバディルファリとの間に子どもを作ったという場面(笑)
アースガルズに戻るための手土産だったのか?もしくはドぎつい変態か。

画像引用
https://sasstrology.com/sun-opposite-moon-synastry/
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%AC%E3%82%A4%E3%83%97%E3%83%8B%E3%83%AB
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B1%B1%E3%81%AE%E5%B7%A8%E4%BA%BA
https://mythpedia.jp/norse-mythology/loki.html
https://crazyaboutcastles.com/welsh-castles/abergavenny-castle/
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